クラブミュージックシーンの賢人 松浦俊夫

毎週迎える全52組のゲストDJ/アーティストが選曲したプレイリストとともに、その“アーティスト像の裏側”= “BEHIND THE MIX”を探っていく『RDMS powered by SMIRNOFF』。

ゲストの選曲から導き出される、バックグラウンド、歴史、価値観、哲学に迫る!

第19回目のゲストは、黎明期からクラブジャズ界を牽引し続ける松浦俊夫。1990年にUnited Future Organization(U.F.O.)を結成。クラブシーンに新風を巻き起こし、その活動は日本だけにとどまらず、世界でも高く評価された。2013年にはHEXを始動。
HEXは、名門ジャズ・レーベル:BLUE NOTEが創立75周年を機に送り出したプロジェクトであり、メンバーには国内トップジャズプレイヤーが集結。今後の活動にも期待が高まっている。
今回はそんな日本クラブミュージックシーンの賢人の裏側を探る、貴重なインタビューをお届けします!

CHOICE 1
青春時代を思い出す、大切な曲
The Style Council“With Everything to Lose”

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With Everything to Lose
The Style Council

ジャンル: ロック, ミュージック, オルタナティブ, ニューウェーブ, ヴォーカル, ヴォーカルポップ

「UKのバンドらしくジャズの要素も入っていて、その後はヒップホップやハウスも取り入れていて、いろいろな要素が混ざっている。それでいてポップフィールドで表現できている素晴らしいアーティスト。
この曲もリムショットのリズムが、ボサノバなんです。音楽的に僕は子どもの頃から人と違うものを求めていたと思います。当時は、それが何かはわからなかったですけど」

80年代に一世を風靡した、ポール・ウェラー率いるバンド:スタイル・カウンシル。多彩なジャンルを融合させたポップサウンドは、前衛的でありながらも洗練されており、デビュー直後から大きな注目を集めていた。
この曲は、全英1位を獲得した2ndアルバム「Our Favorite Shop」(1985年)に収録。

CHOICE 2
初めてDJをしたとき、セットに入っていた曲
Horace Silver“The Cape Verdean Blues”

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The Cape Verdean Blues
Horace Silver

ジャンル: ジャズ, ミュージック, ハード・バップ

「初めてDJをしたのは1988年、僕が勤務していた会社の上司にあたる桑原茂一さんがプロデュースした『革命舞踏会』というイベントですね。川崎のクラブチッタが会場だったんですけど、昼間からクラブミュージックで踊れて、未成年も入れるイベントでした。
当時、 “ジャズで踊る”というムーヴメントがロンドンから東京にも入ってきた時期で、僕もそれを自分なりにやってみたいなと思ってました」

ファンキーなプレイスタイルでジャズシーンで確固たる地位を築き上げたピアニスト、ホレス・シルヴァー。80年代後期、もちろんインターネットはまだない時代。情報源は限られており、その信ぴょう性も確かではなかったが、その分だけ刺激も大きかったことだろう。日本でまだクラブジャズというシーンが確立する以前に、その先鞭をつけた松浦氏。その後のU.F.O.、HEXなどでの活躍は、この一歩から始まった。

CHOICE 3
カッコいいオトナがやっている曲
Mark Murphy“Stolen Moments”

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Stolen Moments
Mark Murphy

ジャンル: ジャズ, ミュージック, ヴォーカル・ジャズ, ヴォーカル, スタンダード

「先日亡くなったばかりのジャズ・シンガー、マーク・マーフィーです。U.F.O.時代に2度、一緒に曲を作り、ライブもやりました。彼はアドリブで歌詞を付ける、スキャットして歌うというスタイルを発展させた人。
“かっこいい大人”とは、ジェントルであり、ユーモアを忘れない人。あと無邪気な意味での“やんちゃさ”があるといいなと思います」

マーク・マーフィーの、アドリブソロにオリジナルの歌詞をつけてスキャットするスタイルは、まるでボーカルが楽器の一部になったようにエモーショナルでスリリングなもので、その後のジャズシーンに大きな影響を与えた。またその粋なスタイルは、クラブジャズシーンからも未だに絶大な人気を誇っている。
2012年以降は闘病生活をつづけていたが、2015年10月22日に83歳で他界した。マーク・マーフィーのスキャットよ、永遠に。

CHOICE 4
ホテルのラウンジでDJするとき、よくかける曲
Kurt Elling“Steppin’ Out”

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Steppin’ Out
Kurt Elling

ジャンル: ジャズ, ミュージック, ヴォーカル, ヴォーカル・ジャズ

「ジョー・ジャクソンの曲のジャズアレンジですね。歌詞に“Into the night=夜に入っていく”ってあるんですけど、ホテルって夜に溶けていく瞬間っていうのがあると思うんです。まあ、昼間でもかけたりしますけど(笑)
日常を忘れることがホテルの役割でもあり、ゲストもスタッフもその役割を演じているという点が面白いですよね」

原曲は邦題“夜の街へ”として有名。摩天楼、ネオン街、車のテールランプ、暗闇に浮かぶ窓の明かり、ダンス…。どれも“夜”にふさわしい言葉である。
ホテルには、“スペシャルな夜”というイメージが強い。スペシャル=非日常であり、それは例えば、誕生日やクリスマス、大切な記念日などが思い浮かぶだろうか。そんなシチュエーションで流れるのはスタイリッシュで、雰囲気を盛り上げるが、主張し過ぎない音楽がいい。まさにベストなセレクトだと言える。

CHOICE 5
好きな映画のサントラから1曲
Herbie Hancock“The Peacock”
※映画『ラウンド・ミッドナイト』(1986年)より

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The Peacock
Herbie Hancock

ジャンル: ジャズ, ミュージック, ハード・バップ, クラシック, バップ, サウンドトラック

「ピアニストのバド・パウエルをモデルにした映画で、主人公をデクスター・ゴードンというサックスプレイヤーが演じているんですね。役者には出すことができないジャズ・ミュージシャンならではの苦悩が、デクスターだからこそ出せている。心震える瞬間がいくつもありました。

映画の舞台はパリ。これはアメリカでジャズ不況が起きた1950年代の物語であり、実際に当時は多くのジャズ・ミュージシャンがヨーロッパに活躍の場を求め移住した。
モデルとなったバド・パウエルは、麻薬中毒や精神疾患に悩まされ続けたが、主役を演じたデクスター・ゴードンも実生活では麻薬の誘惑と戦った過去を持っている。その鬼気迫る演技は高く評価され、アカデミー主演男優賞にノミネートされることとなった。
この『ラウンド・ミッドナイト』の音楽は全編、ハービー・ハンコックが手掛けている。

CHOICE 6
世界に紹介したい、和モノの曲
板橋文夫“渡良瀬”

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渡良瀬
板橋文夫

ジャンル: ジャズ, ミュージック

「ジャズピアニストの板橋文夫さんの曲です。タイトルは彼の故郷の栃木県にかかる渡良瀬川からとっていて、彼の故郷でもあるんですね。
ジャズのなかにこういった土俗性を入れて、さらにフュージョン化している。この曲は海外のジャズDJたちの間でも非常に有名です」

ジャズピアニスト:板橋文夫の作品「渡良瀬」(1982年)は、いわばクラシックとも言えるヒット曲であり、ジャズシーン全体から高い人気を誇っている。
“○○○ファンからすれば常識の名曲だけど、他のシーンではあまり知られていない”、そんな隠れた名曲はいくつも存在するが、これは日本から世界へ通用する名曲中の名曲。

CHOICE 7
ひとりでしっとり聞きたい、泣ける曲
Caetano Veloso“Cu-Cu-Ru-Cu-Cu Paloma”

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Cu-Cu-Ru-Cu-Cu Paloma
Caetano Veloso

ジャンル: MPB, ミュージック, ブラジル

「『オール・アバウト・マイ・マザー』などで知られるペドロ・アルモドバル監督の映画『トーク・トゥ・ハー』(アカデミー賞脚本賞受賞作品/2002年)でカエターノ・ヴェローゾがこの曲を歌うシーンがあって、聴いている人たちが皆、涙を流すというシーンがあるんです。美空ひばりさんも日本語で歌ってたりします。
ダンスミュージックとしてどうか、というより、心を揺さぶられる曲であれば、ビートの有無やテンポの早い遅いに関係なく踊れると思っています」

松浦氏の映画好きの一面が垣間見られるセレクトとなった。もともとは民族舞踏曲である同曲。“We Are The World”を送り出したプロジェクト「USAフォー・アフリカ」の提唱者として知られるハリー・ベラフォンテが歌いヒットを記録。
コメントにある通り、美空ひばりに歌われるなど世界中で親しまれている楽曲だが、カエターノ・ヴェローゾが歌うシーンは非常に感動的で、時代を越えて改めてこの曲が世界中に認知されるきっかけとなった。

CHOICE 8
最近の松浦俊夫はこんな感じ!DJでよくかける曲
DJ Paypal“Awakening”

「フライング・ロータスのレーベルから、ジャズとジューク~フットワークを融合したクロスオーバー作品。こういった曲が出てくると再びクラブシーンでジャズがフォーカスされる予感がします」

00年代中盤より革新的なサウンドを送り出し、アンダーグラウンド~オーバーグラウンド問わず高い評価を獲得しているフライング・ロータスとその一派、Brainfeeder。
シカゴ発祥の最新音楽スタイル、ジューク~フットワークとジャズをミックスするセンスは彼らならでは。クラブジャズに再び光を当てるきっかけとなるか。

松浦俊夫らしい大人の洗練された楽曲が並んだ。80年代の楽曲が多くセレクトされており、この時期の楽曲が彼のキャリアを形成するうえで、大きな影響を及ぼしたのではないだろうか。
また“良い曲は時代を超えて愛される”という表現は、使い古された感があるが、この言葉の意味を非常に説得力を持って証明してくれたとも言える。
<CHOICE7>のコメントにもあるが、“心震える曲”ならば体は勝手に動き出す。そこに古いも新しいもない。これまでのRDMSとはまた異なる視点を与えてくれた。

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