キャリア30周年を迎えたレコード番長、須永辰緒

毎週迎える全52組のゲストDJ/アーティストが選曲したプレイリストとともに、その“アーティスト像の裏側”= “BEHIND THE MIX”を探っていく『RDMS powered by SMIRNOFF』。

ゲストの選曲から導き出される、バックグラウンド、歴史、価値観、哲学に迫る!

第22回目のゲストは、“レコード番長”の異名をとる須永辰緒。Sunaga t Experience名義でソロ、DJ、プロデューサーとして活動を続け、これまでにオリジナルアルバムを5枚リリース。さらにライフワークとも言えるコンピレーションシリーズ「須永辰緒の夜ジャズ」は、15作続くヒットシリーズとなっており、その他多くのコンピレーションの監修やリミックスを手がけてきた。今年DJ活動30周年を迎えた彼のキャリアを、その選曲から振り返る!

CHOICE 1
初めてDJした時のセットに入っていた曲
Stiff Little Fingers“Suspect Device”

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Suspect Device
Stiff Little Fingers

ジャンル: ロック, ミュージック, オルタナティブ, パンク

「僕はもともとパンクのDJになりたくて、大貫憲章さんに憧れていましたね。パンクがかかってるフロアに興味があったので、ディスコは全然通ってきていないんですよ。僕の時代は、そのお店の社員にならないとDJができなかったんです。いわゆる音楽係ですよね。新宿のツバキハウスにDJ見習いとして入る予定だったんですが、定員がオーバーしてしまっていて、系列店のBOOGIE BOYという店に回されました。後輩のDJでEMMAくんがいたり、有名なDJを輩出してきたお店です。
いまのクラブシーンは健全ですね。当時は、“ケガをしたくなければ、足を踏み入れるな”みたいな雰囲気がありました(笑)」

いまや“ジャズDJ”として知られる須永辰緒だが、キャリア当初はパンクDJを志していた。当時のクラブの雰囲気などのエピソードは、現在のシーンはこういうプロセスをたどって形成されてきたのだな、と感慨深くなる。スティッフ・リトル・フィンガーズは、北アイルランド出身の、70年代を代表するパンクバンドのひとつ。1982年に一度解散するが、1987年に再結成を果たし、現在も活動をつづけるイカしたパンク野郎たちだ。

CHOICE 2
今でも大好きなHIPHOPの曲
The Beatnuts“Props Over Here”

「ビート・ナッツは好きな曲がたくさんあります。いまの僕はジャズをメインにプレイをしていますが、強くリンクする部分があって、レコードバッグには常に入っています。ベースラインは、BLUE NOTEからのリリースでも知られるトランペッター:ドナルド・バードとブッカー・リトルの『THE THIRD WORLD』というアフロティックなジャズアルバムからのネタですね。こんなの見つけるヒップホップはかっこいいな!って思いましたね」

90年代にコアなサンプリングネタや絶妙なセンスで衝撃を与えたビート・ナッツ。
パンクDJとして活動した後、ヒップホップに傾倒した須永辰緒。その大きな要因のひとつにこういったサンプリングの妙味があったのかもしれない。

CHOICE 3
DJになって最初の10年(1985年~)に良くかけた中から、テンションが上がる曲
PUBLIC ENEMY“Bring the Noise”

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Bring the Noise
PUBLIC ENEMY

ジャンル: ヒップホップ/ラップ, ミュージック, ロック, ハードコア・ラップ, イースト・コースト・ ラップ

「この曲を聴いたときは、ぶっ飛びましたね。ハンク・ショックリーのプロデュースなんですが、僕は当時、いまやウエストコーストのトップDJのPMXと一緒に行動していまして、『どうやったらハンク・ショックリーのような曲が作れるのか?』と、彼と一緒に考えてましたね。そういったこともあって、思い入れも強いです。
またフリーランスでヒップホップDJを始めたばかりでもあって、この曲は自分のパーティに集まってくれたお客さんやクルーとともに当時の僕を支えてくれました」

80年代にパブリック・エナミーやアイス・キューブ等を手がけ、一時代を築き上げたプロデューサーチーム:ボム・スクワッド。その首領であるハンク・ショックリーに須永氏が憧れていた、というエピソードは青春そのもの。特にウェッサイシーンのカリスマ的存在、DJ PMXと一緒に行動していたという点が、また興味をそそられる。ヒップホップ史の観点からも様々な影響を与えた1曲であるが、日本でもアメリカと大きなタイムラグがなく、大きな反響を呼んでいたという事実。現場にいたものにしかわからない貴重なエピソードである。

CHOICE 4
DJ歴11年目以降(1995年~)に多くセレクトした中から、ボーカルが美しい曲
Joyce Cooling“It’s You”

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It’s You
Joyce Cooling

ジャンル: ジャズ, ミュージック, ラテンジャズ, クロスオーバー・ジャズ

「世の中のクラブファンの大多数の人は、僕のことを“It’s Youの人”だと思ってるんじゃないですか?(笑) というのも、この曲をカバーした12インチのレコードが、1万枚以上売れたと聞いています。
この曲は、ブラジリアンフュージョンというジャンルなんですが、当時は全然詳しくなくて、ただ単純に曲が良くて、カバーまでしてしまった(笑)」

須永辰緒の1stアルバム「クローカ」にも収録され、シングルカットもされたクラシック中のクラシック“It’s You”。アーティストにとって決定的な代表曲があるというのは、多くの人に知られている嬉しさがある反面、「俺はそれだけじゃない」という気持ちも混じった複雑な心境だろうか。
しかし、ただただ曲が良すぎて、カバーしたという“愛”。今後も須永辰緒という名前とともに受け継がれていく名曲であることは間違いない。

CHOICE 5
DJ歴21年目以降(2005年~)に良くかけている中から、これからもずっと聞いていたい名曲
The Five Corners Quintet“Unsquarebossa”

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Unsquarebossa
The Five Corners Quintet

ジャンル: ジャズ, ミュージック, ポップ

「この選曲は色々迷いましたね。ライフワークで、北欧ジャズを日本に紹介したいというのがあるんです。この曲は、フィンランドのバンドの曲。
フィンランドのジャズって言われても想像がつかないじゃないですか? どんなんだろう?って北欧ジャズの探求のきっかけになったのが、この曲です」

30年のキャリアのなかでも、最近10年の傾向として、悩みながらも“北欧ジャズ”を挙げてくれた。00年代に入り、クラブシーンを席巻したヨーロッパ・ジャズ勢だが、その中心的存在として活躍したのが、このザ・ファイブ・コーナーズ・クインテット。確かに“ジャズ=アメリカ”のイメージがいまだ根強いなかで、北欧ジャズ!?となると、音楽好きならば気にならないはずがない。
しかも、洗練された新しいサウンド。今後別の機会に“北欧ジャズの名盤を、レコード番長が紹介!”といったような企画があれば嬉しい限りだ。

CHOICE 6
30年のDJキャリアのなかで、おそらく最も多くかけた曲
EGO-WRAPPIN’“色彩のブルース”

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色彩のブルース
EGO-WRAPPIN’

ジャンル: J-Pop, ミュージック, ポップ

「これもなかなか難しかったですね。ビースティ・ボーイズの“Fight For Your Right”とか…。でも、タイミング的にこの番組のあと、連中と一緒だったりすることもあって、この曲を選びました。おそらく僕は、誰よりもこの曲をプレイしてきたし、誰よりも上手にかけることができます(笑) 本人たち公認です。僕は一時期、この曲でフロアにいる人を泣かせるためにDJをしていました」

EGO-WRAPPIN’愛、炸裂。“誰よりも多くプレイし、誰よりも上手くプレイできる”と豪語。読者(リスナー)のなかには、須永辰緒の“色彩のブルース”に泣かされた経験がある人もいるのでは?この曲は、EGO-WRAPPIN’の名が世に知れ渡るきっかけとなった大ヒット曲で、ジャズに昭和歌謡やキャバレー音楽の要素を融合したスタイルの斬新さが話題になった。

CHOICE 7
正統派のジャズではないけど“ジャズだなぁー”と思う曲
EGO-WRAPPIN’“パラノイア”

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パラノイア
EGO-WRAPPIN’

ジャンル: J-Pop, ミュージック, ジャズ, ワールド

「EGO-WRAPPIN’の曲から“ジャズ”を教わることが多いですね。他にもクレイジー・ケン・バンドやRHYMESTERだったり、身近なアーティストから“ジャズ”を感じることがあります。
もし、人にEGO-WRAPPIN’のいいところを聞かれたら、“パンク“って答えます。要するに精神性なんだけど、ジャズだけで夜中ぶっ通しで踊らせることは難しいんですけど、それがある程度できるレベルに達したときに、“俺ってパンクだな”って思ったんです。だから、ジャズもパンクで、そういった意味ではEGO-WRAPPIN’もパンク」

再び、EGO-WRAPPIN’愛、炸裂! “ジャズとは何?”という命題にも突っ込むこととなったこの選曲では、誤解を恐れずに言えば“ジャズとはパンクである”と須永辰緒は説明する。ジャズの起源や歴史も諸説あるが、“自由”というワードとともに拡大してきたシーンであり、音楽構造を抜きにして語るとその“精神性”に共通点は確かに多い。

CHOICE 8
“最近の若い世代のジャズ”と聞いて思い浮かぶ曲
Robert Glasper feat. COMMON“I Stand Alone”

「ロバート・グラスパーの世代が、本当に恐ろしい才能の持ち主ばかりで…。UKでもダブステップを通過してジャズをやっているアーティストがいたり、クラブで遊んできた連中がジャズをやっているんですよね。
ただラッパーをフィーチャーしている軽薄な感じじゃなくて、ジャズ作品としても完璧」

ジャズというフォーマットを革新的に拡大し続けるロバート・グラスパー。ヒップホップやR&Bなど様々なジャンルのエッセンスをジャズと結びつけるスタイルは、デビュー以降、常に高い注目を浴び続けている。
今後も新しい世代による新しい“ジャズ×○○”が生まれることに期待したい。

CHOICE 9
Sunaga t Experienceの作品群から、いま聴きたい1曲
Sunaga t Experience feat. Zeebra, MURO, RINO LATINA Ⅱ, ECD, YOU THE ROCK★, スチャダラパー“DIRTY30”

「2015年5月にリリースした5枚目のアルバム『STE』から。客演が長くて申し訳ないんですが(笑)」

DJ活動30周年を記念してリリースされた須永辰緒の5枚目のオリジナルアルバム「STE」。
豪華アーティストが多く参加した全11曲の中から自身が選んだのは、6組のラッパーが参加した「DIRTY30」。
洗練されたジャズの上に乗るのは、須永辰緒とともにキャリアを重ねてきた彼の仲間たちによるマイクリレー。まるで、クラブシーンの30年をたどるようなリリックとサウンドメインキングは、クラブミュージックファンなら感涙モノ。

パンク〜ヒップホップ〜ジャズと、須永辰緒のキャリアをたどる質問に対し、“レコード番長”の称号に違わぬバラエティ豊かな選曲を披露してくれた。
計9曲の選曲から感じることができたのは、曲やアーティストに対する“愛”だった。
メジャー/アンダーグラウンドやジャンルを問わず“いい曲はいい”の精神で、須永辰緒は実に無邪気に、楽しそうに1曲1曲を紹介してくれた。今回はそのキャリアのほんの一部の紹介になったが、ぜひ須永辰緒の30年間に思いを巡らせながら、今回の選曲を聴いてみてほしい。

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