国内ダブステップシーンの最重要人物“GOTH-TRAD”の音楽哲学

毎週迎える全52組のゲストDJ/アーティストが選曲したプレイリストとともに、その“アーティスト像の裏側”= “BEHIND THE MIX”を探っていく『RDMS powered by SMIRNOFF』。

ゲストの選曲から導き出される、バックグラウンド、歴史、価値観、哲学に迫る!

第36回目のゲストは、ダブステップを軸に、様々なジャンルのサウンドを操る独自の世界観が高く評価され、世界中からオファーが尽きない孤高のアーティスト、GOTH-TRADが登場! 世界中を飛び回り、獲得してきた最新のサウンドは、自身がオーガナイズするパーティ『Back To Chill』でもとことん発揮。日本にいながら最新のアンダーグラウンドサウンドに触れられることから、同パーティは高い人気を誇っている。楽曲やリミックス作品も多岐に渡り、そのどれもが海外で大きな注目を集める国内ダブステップシーンの最重要人物の音楽哲学は、やはり深く濃密だった!

CHOICE 1
ドラムンベースでお気に入りを1曲
Elastic Horizons“Drums Conductor”

「1993年頃にジャングルを聴き始めて、1995年にゴールディのアルバムがリリースされた頃からドラムンベースは聴いてますね。なかでもUKベースのドラムンベース。ブリストルのDJクラストやDJダイのV Recordings周辺、モア・ロッカーズとかが好きでした。“ブリストル”は、ジャマイカからの移民が多いこともあって、ダブやレゲエの影響が強い。ディープでクリエイティブなアーティストが多い街ですね。
この“Drums Conductor”は、インダストリアルやブレイクコアのコンピレーションに収録されていて、そこからよく聴くようになりました」

UKベースミュージックという大きなくくりの中では、ダブステップと密接な関係にあるドラムンベース。「ドラムンベースでお気に入りを1曲」とは、かなりざっくりとした質問だったが、それに対する答えは予想以上に深く、濃いものだった。
エラスティック・ホライゾンズの“Drums Conductor”(1998年)。DJ ACE名義でのリリースもあるとは言え、決して著名とは言えないアーティスト。ひと言に“ドラムンベース”と言えど、GOTH-TRADが指摘するように様々な要素の結晶体であり、同曲はよりアンダーグラウンドで不穏な空気のなか、不規則なリズムが乱れ飛ぶドープな1曲だ。

CHOICE 2
ハウスでお気に入りを1曲
X-Press 2“Muzik Xpress”

「1991年頃、中学生のときにナイトメアズ・オン・ワックスやLFO、プロディジーといったUKのダンスミュージックにハマっていったんです。その頃聴いたコンピレーションにこの曲が入ってて、『ハウスってかっこいいな』って思いました。
ベースラインが特にかっこよくて、じわじわと上がっていく感じや中盤のレイブ感もいいですね」

1990年代のUKダンスミュージックの洗礼を受けたGOTH-TRAD。先週出演してくれたDJ SHINKAWAも「1990年代ロンドンのクラブシーンを象徴する1曲」としてピックアップした、X-Press2の“Muzik Xpress”。
トランス、ダブステップとジャンルは違えど、ハウスを象徴する1曲の意見は一致。これはすごいことではないだろうか。
もちろん世代によるところも大きいだろうが、当時のX-Press2の勢いを体現するエピソードと言えそうだ。リアルタイムで触れていない若いリスナーは、ぜひチェックしてほしい!

CHOICE 3
ビートレスな音楽でオススメを1曲
Steve Gorn, Tony Levin, Jerry Marotta“Drumming on Water”

「これはトニー・レヴィンが中心になって制作したアルバムに収録されていて、全曲が洞窟で収録されているんです。しかも、3D録音機を使用しているので、自然のリバーヴ音が楽しめる。
特にこの曲は、演奏者が洞窟を歩いている絵を思い浮かべるのが容易な音像になっています。個人的には、チルアウトするときによく聴きます」

キング・クリムゾンに在籍し、超絶技法のベーシストとしてその地位を不動のものにしたトニー・レヴィン。彼を中心としたトリオが1997年にリリースしたアルバム「From the Caves of the Iron Mountain」は、ニューヨーク市民から親しまれているキャッツキル山地の洞窟でレコーディングされた。しかもほとんどが即興演奏という、実験的な作品である。
ベースのトニー・レヴィン、サックス/竹笛のスティーヴ・ゴーン、ドラムのジェリー・マロッタという屈指のプレーヤーが洞窟内で一発録音をした、というだけで神秘的であり、そのサウンドもまた夢心地である。

CHOICE 4
“美しい”と思う曲
SPECTRE & SCOTTY HARD“THE JOUST”

「NYアンダーグラウンドレーベルのコンピの1曲目に入ってました。言葉には表現できないんですが、聴いた瞬間に音数のシンプルさやウワモノのメロディ感、立体感、ドープさ…。すべてが大好きですね。構成も含めて、“美しい”と思います。
この曲は、自分で曲を作りたいと思うきっかけになりました。ジャケットもベースを銃のように構えた白黒のデザインで、一見するとクラシックの盤にも見えるんですよね。そのイメージと音がすごくリンクするんです」

NYのレーベル:WordSoundから1996年にリリースされたコンピ『Crooklyn Dub Consortium – Certified Dope Vol. 2』。
レアなコンピ盤に収録された、退廃的でスモーキーな1曲。“美しさ”というより、GOTH-TRADの“美学”を感じることができる選曲となった。

CHOICE 5
UKダブステップの曲で、オススメを1曲
Digital Mystikz“Haunted”

「ダブステップ初期の楽曲ですが、いまだに現場ではアンセムです。
00年代初期のダブステップが盛り上がっていた頃は、BPMが約70/140でヘヴィーなベースというくくりはあったんですが、ジャンルとしてのルールが無いものでした。もともと、テクノ、ドラムンベース、ダブ、ヒップホップ、エクスペリメンタルなどバラバラのルーツを持ったプロデューサーが一斉に制作を始めた時期で、異種格闘技戦みたいに、クリエイティブでエキサイティングな時代でした」

ダブステップのオリジネーターとして名高いデジタル・ミスティックズ(マーラとコーキによるユニット)。GOTH-TRADからしてみれば、何度も共演の経験があり、マーラのレーベル:Deep Midi Musikからもリリースを重ねているので、シーンの偉大な先輩と言える存在だろう。
アンセムは無数にリリースしている彼らだが、その中でもGOTH-TRADが“これぞダブステップ”とセレクトしたのが、“Haunted”。ダブステップが百花繚乱のごとく花咲いた時期、特にデジタル・ミスティックズはジャングル、ドラムンベース、ダブ、レゲエなどをルーツとしたブッといサウンドで一世を風靡した。

CHOICE 6
最近のGOTH-TRADはこんな感じ!
最近手掛けた作品のなかからオススメを1曲
ENDON“Just Like Everybody(GOTH-TRAD REMIX)”

「爆発的なパワー感のある曲に仕上がっていると思います」

日本が誇る凶悪ノイズ・バンド、ENDON。彼らの1stアルバム『MAMA』収録の“Just Like Everybody”。この曲のGOTH-TRADリミックスバージョンが、2015年のEP「Bodies III」に収められている。
暴風雨のように吹き荒れるノイズ音と呪術めいたボーカルといった混沌のなかには、グラインドコアやシューゲイザー、アンビエントなど多彩なジャンルの要素が散りばめられており、さらにGOTH-TRADによってデカダンな美が強調される。
“静”と“動”のコントラストが、霞みがかった唯一無二の世界観を堪能させてくれる。

今回の選曲はとにかくドープ。GOTH-TRADの魅力が満載の回となった。
“バックグラウンドを紐解く”というRDMSのコンセプトにもしっかりフィットするように、音楽を始めるきっかけとなった“THE JOUST”など90年代後半のアンダーグラウンド楽曲が、プレイリストの多くを占めた。そして、当時彼が情報を得ていたのは、一度で多くの最新楽曲、アーティストを知ることができるコンピレーション作品であった。そこからどんどんと深く、濃く音源を掘っていったことが想像できる。
今回の選曲と併せて彼の楽曲を聴いてみれば、より深くGOTH-TRADの音楽志向を知ることができるはずだ。

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